目次
はじめに
第1章 諦めたくないから諦めた
第2章 やめることについて考えてみよう
第3章 現役を引退した僕が見たオリンピック
第4章 他人が決めたランキングに惑わされない
第5章 人は万能ではなく、世の中は平等ではない
第6章 自分にとっての幸福とは何か
おわりに
気付き
(1)手段は諦めていいけども目的を諦めてはいけない
多くの人は、手段を諦めることが諦めだと思っている。だが、目的さえ諦めなければ、手段は変えてもいい。何かをやめるかやめないかを決めるときのロジックとして二つのパターンがある。「もう少しで成功するから、諦めずにがんばろう」「せっかくここまでやったんだから、諦めずにがんばろう」前者は未来を見ている。後者は過去を見ている。未来に紐づけられているのは「希望」であるが、「希望」と「願望」を混同している人が多い。「成功する確率が低いのは薄々気付いているけれども、もしかしたら成功するかもしれないから諦めずにがんばろう。今までこれだけがんばってきたんだし」願望と希望を錯覚している人はやめ時を見失う。願望は確率をねじ曲げるからである。
(2)人間に優劣はないが、能力に優劣がある
人間に優劣はないということが信じられない限り、いくら能力の優劣を否定しても幸福感は得られない。競争から解き放たれた人と競争から逃げた人は違う。自分なりの幸せに気付いた人と、負けるのがいやで競争を否定している人も違う。何かを諦めた人が取る行動は二つに分かれる。潔く今とは違うフィールドに移り、再び淡々と成功に向かって動き始める人と、諦めていない人を自分の仲間に引き入れようとする人だ。自分は不本意ながらも諦めたのだから、生き生きと夢を追いかけ続けている人が気になって仕方ない。
(3)一意専心よりもオプションを持つこと
アスリートは、頭のなかにアスリート以外のキャリアのオプションを持っているのといないのとでは(具体的にアクションを起こしていなくても)、競技に対する変わる。「別の方向に進める可能性もあるが、あえて今はアスリートをやっている」人は、いい加減な気持ちでやっているわけではなく、ある意味で肩の力が抜けている。期待値が低いとチャレンジしやすい気持ちになるのは、成功しなければならないという義務感から解放されるから。「それをやったらこんないいことがある」と言うのではなく、「そんなことをしても得にはならないよ」と言う優しさもある。「得にならなくても楽しいからやりたいな」という感覚をたくさん味わうことが、自分の軸をつくっていくことにつながる。現代は生き方、働き方にも多様な選択肢がある時代だ。メリットもあるが、選択肢がありすぎて選べないデメリットもある。メリットばかりを強調することは、自分の軸を見誤らせる危険性を高めていく。
感想
「走る哲学者」と呼ばれる元陸上選手の為末大さんの本です。人生の中で競技に向き合ってきた中での思考が本当に深いです。なかなか言葉にされていないことを丁寧に言語化しているように感じました。